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西表島(いりおもてじま)は2021年、ユネスコの世界自然遺産になりました。ただ、現地に立っても「ここが遺産です」という石碑や建物があるわけではありません。評価されたのは、島そのものと、そこに暮らす生き物たちです。この記事では、環境省・林野庁・竹富町観光協会の公式資料をもとに、いつ・どういう理由で登録されたのか、西表島のどこがその価値を分かりやすく見せてくれるのか、そして旅行者として何を心がければいいのかを整理します。
登録は2021年7月26日|「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の一部として
環境省の報道発表によると、第44回世界遺産委員会拡大会合で「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界遺産一覧表への記載が決まったのは、パリ時間2021年7月26日11時42分(日本時間の同日18時42分)でした。西表島だけが単独で登録されたのではなく、4つの地域・5つの構成要素からなる一つの遺産の一部として登録された、というのが正確な形です。
環境省の説明では、この遺産は中琉球の奄美大島・徳之島・沖縄島北部と、南琉球の西表島で構成される、面積42,698haの陸域です。林野庁が公表している地域別の登録面積を見ると、西表島の存在感がはっきりします。
| 地域 | 登録面積 | 遺産全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 奄美大島 | 11,640ha | 約27% |
| 徳之島 | 2,515ha | 約6% |
| 沖縄島北部 | 7,721ha | 約18% |
| 西表島 | 20,822ha | 約49% |
| 総面積 | 42,698ha | 100% |
4地域のうち、西表島だけで20,822ha。遺産全体の半分近くを一つの島が占めています。一般財団法人西表財団も「世界遺産エリアの面積は、4地域合わせて約427㎢で、西表島における面積は、そのほぼ半分の208㎢にも及びます」と説明しています。しかも林野庁の同じ資料によると、西表島の登録面積20,822haのうち19,894ha(95.5%)が国有林野です。島の自然が国の森林として管理されてきたことが、そのまま遺産の土台になっています。
選ばれた理由は「基準(x)」|生き物のゆりかごとしての評価
世界遺産には登録基準があり、この遺産が満たしたのは基準(x)ひとつです。林野庁の資料には、次のように示されています。
(x)学術上又は保全上顕著な普遍的価値を有する絶滅のおそれのある種の生息地など、生物多様性の生息域内保全にとって最も重要な自然の生息地を包含する。
つまり評価されたのは、風景の美しさでも地形の珍しさでもなく、絶滅が心配される生き物が今も生き続けている場所であることです。林野庁は遺産地域の自然の特徴として「イリオモテヤマネコ、アマミノクロウサギ、ヤンバルクイナなど、IUCNのレッドリストの絶滅危惧種95種(そのうち75種は固有種)を含む陸生動植物の生息・生育地である」と説明しています。95種のうち75種が、ここにしかいない固有種という比率が、この地域の特異さを物語ります。

環境省は遺産地域の特徴として、この島々が黒潮と亜熱帯性高気圧の影響を受け「温暖、多湿な亜熱帯性気候を呈し、主に常緑広葉樹多雨林に覆われている」ことを挙げ、さらに「世界の生物多様性ホットスポットの一つである日本の中でも生物多様性が突出して高い地域である中琉球、南琉球を最も代表する区域である」と説明しています。多くの分類群で種数が多く、絶滅危惧種と固有種の割合が高い。森の見た目ではなく、そこに何種が生きているかで選ばれたという理解が、いちばん実像に近いことになります。
西表島を象徴する存在がイリオモテヤマネコです。環境省の遺産紹介ページでも「イリオモテヤマネコは『ヤマネコの生息する世界最小の島』西表島だけに生息する」と、価値を示す代表例として挙げられています。推定生息数は約100頭(2008年調査結果)で減少傾向と、環境省の西表野生生物保護センターは説明しています。
遺産の価値が見える場所①|浦内川と、その奥の滝
「森が深い」と言われてもぴんと来ないとき、いちばん分かりやすいのが川です。竹富町観光協会は、西表島にある浦内川を「沖縄県最大の川」と紹介し、上流には「マリユドゥの滝」「カンビレーの滝」、さらに奥に進むと「マヤグスクの滝」があると説明しています。
大きな川があるということは、それを支える集水域の森が広いということです。遊覧船で川をさかのぼると、両岸が延々と森のまま続き、人家も畑も現れません。船を降りてから遊歩道を歩き、展望所からマリユドゥの滝を見下ろすまでが、体力に自信がない人でも遺産の中身に触れられる定番のコースになっています。
その先のマヤグスクの滝や浦内川源流域は、事前の立入承認が必要なフィールドです。「行けたら行く」ではなく、行くと決めた時点で手続きが要ります。詳しくは後述します。
遺産の価値が見える場所②|仲間川のマングローブと巨木

島の東側を流れる仲間川について、竹富町観光協会は「マングローブの流域面積日本一を誇る」と紹介し、流域には「日本最大の『サキシマスオウノキ』や『天然記念物ウブンドルのヤエヤマヤシ群落』など貴重な自然を見ることができる」と説明しています。
マングローブは、海水と淡水が混じる場所にしか育たない森です。塩分を含んだ泥に根を張るために、板のように広がった根や、地面から突き出す根で体を支えます。仲間川の遊覧船は満潮の時間帯に合わせて運航され、船から板根のサキシマスオウノキを見に行く上陸コースもあります。海の生き物と森の生き物が同じ場所で暮らしているという亜熱帯の島の構造が、川面から見るといちばんよく分かります。
マングローブクルーズの料金や所要時間、予約の要否は、下の関連記事にまとめています。
遺産になって変わったこと|奥へ入るには「立入承認」が要る
世界自然遺産になって増えたのは、観光客だけではありません。歩き方のルールも整いました。竹富町は2024年9月から、島の奥にある5つのフィールド(ヒナイ川、西田川、古見岳、浦内川源流域、テドウ山)への立入承認の申請受付を始めています。1日あたりの上限人数が決まっており、上限に達すればその日は入れません。
ヒナイ川と西田川は、町が認めたガイドの同行が前提です。講習を受けて自分たちだけで入る道が用意されているのは、古見岳・浦内川源流域・テドウ山の3か所に限られます。ツアーに申し込むときは、立入承認の手続きが料金に含まれるのか、自分で申請するのかを必ず確認してください。申請できる時期・手数料を含む手続きの流れは、別記事で詳しく解説しています。
ハンドルを握る人には、もうひとつ守ってほしいことがあります。環境省は西表石垣国立公園の取組みとして、イリオモテヤマネコやカンムリワシなどの保護のために「島速度(時速40km以下)での運転を呼びかける」と示しています。遺産地域の内と外は道路でつながっています。展望所に立つ前に、まずアクセルを緩めることが、旅行者にできるいちばん確実な保全になります。
旅の組み立て方|日帰りでも「遺産の入口」までは届く
西表島は石垣島から高速船で渡れるので、日帰りでも浦内川のクルーズや仲間川のマングローブクルーズには参加できます。ただし、船の時間に追われて片方しか回れないことが多いのも事実です。滝の展望所まで歩き、干潮と満潮で表情が変わる川を両方見たいなら、島に一泊するほうが確実です。夜の森の音や、灯りの少ない空も、泊まった人だけが手に入れる時間になります。
実際にカヤックツアーへ参加した旅行者の記録(西表島のカヤックツアー体験動画)を見ると、朝いちばんの高速船で上原港に着き、そのまま港前から路線バスで集合場所へ向かう、という詰まった動線になっています。船・バス・ツアー集合が数珠つなぎなので、日帰りで奥まで行く計画ほど遅れに弱いということです。装備は長袖のラッシュガードと濡れてよい服装、靴はツアー側で貸し出されることが多く、参加者が用意するのは着替えと日焼け対策が中心だったと記録されています。
| やりたいこと | 必要な手続き | 目安の組み方 |
|---|---|---|
| 浦内川クルーズ+マリユドゥの滝の展望所 | 不要(遊覧船の予約のみ) | 日帰りでも可能 |
| 仲間川マングローブクルーズ | 不要(満潮の時間帯に合わせて運航) | 日帰りでも可能 |
| ピナイサーラの滝(ヒナイ川) | 立入承認+認定ガイドの同行 | ツアー予約が前提 |
| マヤグスクの滝(浦内川源流域) | 立入承認+ガイド同行または町の講習 | 一泊以上で計画 |
まとめ
西表島が世界自然遺産になったのは2021年7月26日、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」という4地域5構成要素の一部としてでした。決め手は基準(x)、つまり絶滅のおそれがある生き物の生息地としての価値です。遺産全体42,698haのうち西表島は20,822ha。数字の上でも、この島は遺産の中心にあります。
その価値は、沖縄県最大の川である浦内川と、マングローブの流域面積日本一の仲間川という2本の川が、いちばん分かりやすく見せてくれます。どちらも特別な許可なしに遊覧船で入れます。一方、島の奥へ向かう5つのフィールドは立入承認が必要になりました。手前は開かれ、奥は守られている。この線引きを知って歩くことが、遺産の島の楽しみ方です。
参考・出典(公式サイト)
- 環境省|「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界遺産一覧表への記載決定について(速報)
- 環境省 沖縄奄美自然環境事務所|世界自然遺産 遺産地域の特徴
- 林野庁|「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の位置・登録面積
- 林野庁|世界自然遺産「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の概要(登録基準・自然の特徴)
- 一般財団法人西表財団|世界自然遺産としての西表島
- 竹富町観光協会|竹富町について(浦内川・仲間川)
- 環境省|西表石垣国立公園 概要・公園計画
- 環境省|西表石垣国立公園の取組み(島速度・時速40km以下)
- 西表野生生物保護センター|イリオモテヤマネコとは
※ 立入承認の対象フィールド・上限人数・手数料、遊覧船の運航時間は変更される場合があります。お出かけ前に竹富町および各事業者の公式サイトで最新情報をご確認ください。(最終確認:2026年9月)
